書評『ビジョナリーカンパニー』

『ビジョナリーカンパニー』

(著) ジェームズ・C・コリンズ/ジェリー・I・ポラス
(訳) 山岡洋一
日経BP社 1995年

(原題:BUILT TO LAST)

「これは自己啓発書ではないのか?」

読み進めるうちにそんな錯覚に襲われますが、本書はれっきとした経営学の学術書。469頁の大著でありながら文章は極めて平易で、経営やビジネスに疎(うと)い読者も組織の面白さと奥深さにぐいぐいと引き込まれてしまいます。

そして、本書が発見した原則の多くはそのまま人間の生き方にも適用できることに読者は気がつくでしょう。本書はいわば企業版『7つの習慣』というわけです。

本書の目的は、ビジョナリー・カンパニーに共通する原則を炙り出すことにあります。調査対象となった企業は、3M、GE、IBM、ウォルマート、ソニーなど世界的に有名な18社。

しばしば誤解されていますが、ビジョナリー・カンパニーとは単にビジョンを持った会社という意味ではありません。未来志向で先見的で卓越していて、同業他社から広く尊敬を集め、世界に大きな影響を与え続けてきた組織がビジョナリー・カンパニーです。

ビジョナリー・カンパニーに共通する原則の中には、常識や直感に反するものも含まれています。例えば、「会社設立時にすばらしいアイディアは不要である」「カリスマ的経営者はむしろ会社にマイナスである」「ビジョナリー・カンパニーに共通した正しい理念は存在しない」などです。それゆえに謎解きのような面白さがあります。

その謎が解き明かされるまでの一部始終を目撃した読者は、新聞やビジネス誌の読み方がより深くなっているはずです。

本書は共著という体裁ですが、事実上の著者はジェームズ・C・コリンズ氏です。組織論が専門の米スタンフォード大学教授で、ピーター・F・ドラッカーを師と仰ぎます。産業再生機構の元COO冨山和彦氏がスタンフォードに留学していたとき、学生から圧倒的支持を得てコリンズ氏がベスト・ティーチャー賞を受賞したそうです。

今日でも数多くの経営者や起業家が本書を座右の書としており、経営学、とりわけ組織論の金字塔であることは間違いありません。

ところが、本書は実際には役に立たないという指摘を受け、著者もそれを認めました。なぜなのか?

本書に登場したビジョナリー・カンパニーは初めから偉大だったのであり、一般の企業がビジョナリー・カンパニーになる道筋は依然として謎のままだったからです。だから現実の経営では使えないのです。

その批判に対する著者の答えが、続編の『ビジョナリーカンパニー2 飛躍の法則』です。さらに、偉大な企業の衰退を描いた『ビジョナリーカンパニー3 衰退の五段階』に至る3部作をもって、コリンズ氏の組織論は一応の完成を見ることになります。


参考文献

冨山和彦『指一本の執念が勝負を決める』ファーストプレス 2007年 p.151

公開日時:2019年05月31日 05:15