小倉百人一首
『小倉百人一首』は、藤原定家(ふじわらのさだいえ 1162~1241)によって編纂されました。「小倉」の名は、嵯峨(京都の西郊)にあった小倉山荘の障子に百枚の色紙を貼って書かれたことにちなみます。
10世紀のはじめ頃から13世紀初頭までの秀歌が時代順に100人の歌人の和歌から一人一首ずつ収録されていますが、その時代を代表する歌が収められたというわけではありません。『小倉百人一首』は、あくまでも定家の好みに基づいて集められた詞華集(アンソロジー)です。
今日では「百人一首」を「ひゃくにんいっしゅ」と読むことが一般的ですが、かつては「ひゃくにんしゅ」と読まれていました。
一覧の見方
- [上段]短歌[中段]ふりがな(歴史的仮名づかい)[下段]― 作者名 『出典』
小倉百人一首 一覧
- 秋の田の 仮庵の庵の 苫をあらみ わが衣手は 露に濡れつつあきのたの かりほのいほの とまをあらみ わがころもでは つゆにぬれつつ― 天智天皇 『後撰集』 秋中
- 春過ぎて 夏来にけらし 白妙の 衣ほすてふ 天の香具山はるすぎて なつきにけらし しろたへの ころもほすてふ あまのかぐやま― 持統天皇 『新古今集』 夏
- あしびきの 山鳥の尾の しだり尾の 長々し夜を ひとりかも寝むあしびきの やまどりのをの しだりをの ながながしよを ひとりかもねむ― 柿本人麻呂 『拾遺集』 恋
- 田子の浦に うち出でてみれば 白妙の 富士の高嶺に 雪は降りつつたごのうらに うちいでてみれば しろたへの ふじのたかねに ゆきはふりつつ― 山部赤人 『新古今集』 冬
- 奥山に 紅葉踏みわけ 鳴く鹿の 声聞く時ぞ 秋は悲しきおくやまに もみぢふみわけ なくしかの こゑきくときぞ あきはかなしき― 猿丸大夫 『古今集』 秋
- かささぎの 渡せる橋に おく霜の 白きを見れば 夜ぞ更けにけるかささぎの わたせるはしに おくしもの しろきをみれば よぞふけにける― 中納言家持 『新古今集』 冬
- 天の原 ふりさけ見れば 春日なる 三笠の山に 出でし月かもあまのはら ふりさけみれば かすがなる みかさのやまに いでしつきかも― 安倍仲麿 『古今集』 羇旅
- わが庵は 都の辰巳 しかぞすむ 世をうぢ山と 人はいふなりわがいほは みやこのたつみ しかぞすむ よをうぢやまと ひとはいふなり― 喜撰法師 『古今集』 雑
- 花の色は うつりにけりな いたづらに わが身世にふる ながめせしまにはなのいろは うつりにけりな いたづらに わがみよにふる ながめせしまに― 小野小町 『古今集』 春
- これやこの 行くも帰るも 別れては 知るも知らぬも 逢坂の関これやこの ゆくもかへるも わかれては しるもしらぬも あふさかのせき― 蝉丸 『後撰集』 雑
- わたの原 八十島かけて 漕ぎ出でぬと 人には告げよ 海人の釣舟わたのはら やそしまかけて こぎいでぬと ひとにはつげよ あまのつりぶね― 参議篁 『古今集』 羇旅
- 天つ風 雲の通ひ路 吹き閉ぢよ をとめの姿 しばしとどめむあまつかぜ くものかよひぢ ふきとぢよ をとめのすがた しばしとどめむ― 僧正遍昭 『古今集』 雑
- 筑波嶺の 峰より落つる 男女川 恋ぞつもりて 淵となりぬるつくばねの みねよりおつる みなのがは こひぞつもりて ふちとなりぬる― 陽成院 『後撰集』 恋
- 陸奥の しのぶもぢずり 誰ゆゑに 乱れ初めにし 我ならなくにみちのくの しのぶもぢずり たれゆゑに みだれそめにし われならなくに― 河原左大臣 『古今集』 恋
- 君がため 春の野に出でて 若菜摘む わが衣手に 雪は降りつつきみがため はるののにいでて わかなつむ わがころもでに ゆきはふりつつ― 光孝天皇 『古今集』 春
- 立ち別れ いなばの山の 峰に生ふる まつとし聞かば 今帰り来むたちわかれ いなばのやまの みねにおふる まつとしきかば いまかへりこむ― 中納言行平 『古今集』 離別
- ちはやぶる 神代も聞かず 竜田川 唐紅に 水くくるとはちはやぶる かみよもきかず たつたがは からくれなゐに みづくくるとは― 在原業平朝臣 『古今集』 秋
- 住の江の 岸による波 よるさへや 夢の通ひ路 人目よくらむすみのえの きしによるなみ よるさへや ゆめのかよひぢ ひとめよくらむ― 藤原敏行朝臣 『古今集』 恋
- 難波潟 みじかき芦の 節の間も 逢はでこの世を 過ぐしてよとやなにはがた みじかきあしの ふしのまも あはでこのよを すぐしてよとや― 伊勢 『新古今集』 恋
- わびぬれば 今はた同じ 難波なる みをつくしても 逢はむとぞ思ふわびぬれば いまはたおなじ なにはなる みをつくしても あはむとぞおもふ― 元良親王 『後撰集』 恋
- 今来むと 言ひしばかりに 長月の 有明の月を 待ち出でつるかないまこむと いひしばかりに ながつきの ありあけのつきを まちいでつるかな― 素性法師 『古今集』 恋
- 吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむふくからに あきのくさきの しをるれば むべやまかぜを あらしといふらむ― 文屋康秀 『古今集』 秋
- 月見れば 千々に物こそ 悲しけれ わが身一つの 秋にはあらねどつきみれば ちぢにものこそ かなしけれ わがみひとつの あきにはあらねど― 大江千里 『古今集』 秋
- このたびは 幣もとりあへず 手向山 紅葉の錦 神のまにまにこのたびは ぬさもとりあへず たむけやま もみぢのにしき かみのまにまに― 菅家 『古今集』 羇旅
- 名にし負はば 逢坂山の さねかづら 人に知られで くるよしもがななにしおはば あふさかやまの さねかづら ひとにしられで くるよしもがな― 三条右大臣 『後撰集』 恋
- 小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむをぐらやま みねのもみぢば こころあらば いまひとたびの みゆきまたなむ― 貞信公 『拾遺集』 雑秋
- みかの原 わきて流るる いづみ川 いつ見きとてか 恋しかるらむみかのはら わきてながるる いづみがは いつみきとてか こひしかるらむ― 中納言兼輔 『新古今集』 恋
- 山里は 冬ぞ寂しさ まさりける 人目も草も かれぬと思へばやまざとは ふゆぞさびしさ ひとめもくさも かれぬとおもへば― 源宗于朝臣 『古今集』 冬
- 心あてに 折らばや折らむ 初霜の 置きまどはせる 白菊の花こころあてに をらばやをらむ はつしもの おきまどはせる しらぎくのはな― 凡河内躬恒 『古今集』 秋
- 有明の つれなく見えし 別れより 暁ばかり 憂きものはなしありあけの つれなくみえし わかれより あかつきばかり うきものはなし― 壬生忠岑 『古今集』 恋
- 朝ぼらけ 有明の月と 見るまでに 吉野の里に 降れる白雪あさぼらけ ありあけのつきと みるまでに よしののさとに ふれるしらゆき― 坂上是則 『古今集』 冬
- 山川に 風のかけたる 柵は 流れもあへぬ 紅葉なりけりやまがはに かぜのかけたる しがらみは ながれもあへぬ もみぢなりけり― 春道列樹 『古今集』 秋
- ひさかたの 光のどけき 春の日に しづ心なく 花の散るらむひさかたの ひかりのどけき はるのひに しづごころなく はなのちるらむ― 紀友則 『古今集』 春
- 誰をかも 知る人にせむ 高砂の 松も昔の 友ならなくにたれをかも しるひとにせむ たかさごの まつもむかしの ともならなくに― 藤原興風 『古今集』 雑
- 人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香に匂ひけるひとはいさ こころもしらず ふるさとは はなぞむかしの かににほひける― 紀貫之 『古今集』 春
- 夏の夜は まだ宵ながら 明けぬるを 雲のいづこに 月宿るらむなつのよは まだよひながら あけぬるを くものいづこに つきやどるらむ― 清原深養父 『古今集』 夏
- 白露に 風の吹きしく 秋の野は 貫き止めぬ 玉ぞ散りけるしらつゆに かぜのふきしく あきののは つらぬきとめぬ たまぞちりける― 文屋朝康 『後撰集』 秋
- 忘らるる 身をば思はず 誓ひてし 人の命の 惜しくもあるかなわすらるる みをばおもはず ちかひてし ひとのいのちの をしくもあるかな― 右近 『拾遺集』 恋
- 浅茅生の 小野の篠原 しのぶれど あまりてなどか 人の恋しきあさぢふの をののしのはら しのぶれど あまりてなどか ひとのこひしき― 参議等 『後撰集』 恋
- 忍ぶれど 色に出でにけり わが恋は ものや思ふと 人の問ふまでしのぶれど いろにいでにけり わがこひは ものやおもふと ひとのとふまで― 平兼盛 『拾遺集』 恋
- 恋すてふ わが名はまだき 立ちにけり 人知れずこそ 思ひ初めしかこひすてふ わがなはまだき たちにけり ひとしれずこそ おもひそめしか― 壬生忠見 『拾遺集』 恋
- 契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとはちぎりきな かたみにそでを しぼりつつ すゑのまつやま なみこさじとは― 清原元輔 『後拾遺集』 恋
- 逢ひ見ての 後の心に 比ぶれば 昔はものを 思はざりけりあひみての のちのこころに くらぶれば むかしはものを おもはざりけり― 権中納言敦忠 『拾遺集』 恋
- 逢ふことの 絶えてしなくは なかなかに 人をも身をも 恨みざらましあふことの たえてしなくは なかなかに ひとをもみをも うらみざらまし― 中納言朝忠 『拾遺集』 恋
- あはれとも いふべき人は 思ほえで 身のいたづらに なりぬべきかなあはれとも いふべきひとは おもほえで みのいたづらに なりぬべきかな― 謙徳公 『拾遺集』 恋
- 由良の門を 渡る舟人 かぢを絶え ゆくへも知らぬ 恋の道かなゆらのとを わたるふなびと かぢをたえ ゆくへもしらぬ こひのみちかな― 曽禰好忠 『新古今集』 恋
- 八重葎 茂れる宿の さびしきに 人こそ見えね 秋は来にけりやへむぐら しげれるやどの さびしきに ひとこそみえね あきはきにけり― 恵慶法師 『拾遺集』 秋
- 風をいたみ 岩うつ波の おのれのみ くだけて物を 思ふころかなかぜをいたみ いはうつなみの おのれのみ くだけてものを おもふころかな― 源重之 『詞花集』 恋
- 御垣守 衛士のたく火の 夜は燃え 昼は消えつつ 物をこそ思へみかきもり ゑじのたくひの よるはもえ ひるはきえつつ ものをこそおもへ― 大中臣能宣 『詞花集』 恋
- 君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひけるかなきみがため をしからざりし いのちさへ ながくもがなと おもひけるかな― 藤原義孝 『後拾遺集』 恋
- かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひをかくとだに えやはいぶきの さしもぐさ さしもしらじな もゆるおもひを― 藤原実方朝臣 『後拾遺集』 恋
- 明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかなあけぬれば くるるものとは しりながら なほうらめしき あさぼらけかな― 藤原道信朝臣 『後拾遺集』 恋
- 嘆きつつ ひとり寝る夜の 明くる間は いかに久しき ものとかは知るなげきつつ ひとりねるよの あくるまは いかにひさしき ものとかはしる― 右大将道綱母 『拾遺集』 恋
- 忘れじの 行く末までは 難ければ 今日を限りの 命ともがなわすれじの ゆくすゑまでは かたければ けふのかぎりの いのちともがな― 儀同三司母 『新古今集』 恋
- 滝の音は 絶えて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれたきのおとは たえてひさしく なりぬれど なこそながれて なほきこえけれ― 大納言公任 『千載集』 雑
- あらざらむ この世のほかの 思ひ出に 今ひとたびの 逢ふこともがなあらざらむ このよのほかの おもひでに いまひとたびの あふこともがな― 和泉式部 『後拾遺集』 恋
- めぐりあひて 見しやそれとも わかぬ間に 雲がくれにし 夜半の月かなめぐりあひて みしやそれとも わかぬまに くもがくれにし よはのつきかな― 紫式部 『新古今集』 雑
- 有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはするありまやま ゐなのささはら かぜふけば いでそよひとを わすれやはする― 大弐三位 『後拾遺集』 恋
- やすらはで 寝なましものを さ夜更けて 傾くまでの 月を見しかなやすらはで ねなましものを さよふけて かたぶくまでの つきをみしかな― 赤染衛門 『後拾遺集』 恋
- 大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立おほえやま いくののみちの とほければ まだふみもみず あまのはしだて― 小式部内侍 『金葉集』 雑
- いにしへの 奈良の都の 八重桜 けふ九重に 匂ひぬるかないにしへの ならのみやこの やへざくら けふここのへに にほひぬるかな― 伊勢大輔 『詞花集』 春
- 夜をこめて 鳥の空音は 謀るとも よに逢坂の 関は許さじよをこめて とりのそらねは はかるとも よにあふさかの せきはゆるさじ― 清少納言 『後拾遺集』 雑
- 今はただ 思ひ絶えなむ とばかりを 人づてならで 言ふよしもがないまはただ おもひたえなむ とばかりを ひとづてならで いふよしもがな― 左京大夫道雅 『後拾遺集』 恋
- 朝ぼらけ 宇治の川霧 絶え絶えに あらはれわたる 瀬々の網代木あさぼらけ うぢのかはぎり たえだえに あらはれわたる ぜぜのあじろぎ― 権中納言定頼 『千載集』 冬
- 恨みわび ほさぬ袖だに あるものを 恋に朽ちなむ 名こそ惜しけれうらみわび ほさぬそでだに あるものを こひにくちなむ なこそをしけれ― 相模 『後拾遺集』 恋
- もろともに あはれと思へ 山桜 花よりほかに 知る人もなしもろともに あはれとおもへ やまざくら はなよりほかに しるひともなし― 前大僧正行尊 『金葉集』 雑
- 春の夜の 夢ばかりなる 手枕に かひなく立たむ 名こそ惜しけれはるのよの ゆめばかりなる たまくらに かひなくたたむ なこそをしけれ― 周防内侍 『千載集』 雑
- 心にも あらでうき世に ながらへば 恋しかるべき 夜半の月かなこころにも あらでうきよに ながらへば こひしかるべき よはのつきかな― 三条院 『後拾遺集』 雑
- 嵐吹く 三室の山の もみぢ葉は 竜田の川の 錦なりけりあらしふく みむろのやまの もみぢばは たつたのかはの にしきなりけり― 能因法師 『後拾遺集』 秋
- 寂しさに 宿を立ち出でて 眺むれば いづこも同じ 秋の夕暮れさびしさに やどをたちいでて ながむれば いづこもおなじ あきのゆふぐれ― 良暹法師 『後拾遺集』 秋
- 夕されば 門田の稲葉 おとづれて 芦のまろやに 秋風ぞ吹くゆふされば かどたのいなば おとづれて あしのまろやに あきかぜぞふく― 大納言経信 『金葉集』 秋
- 音に聞く 高師の浜の あだ波は かけじや袖の 濡れもこそすれおとにきく たかしのはまの あだなみは かけじやそでの ぬれもこそすれ― 祐子内親王家紀伊 『金葉集』 恋
- 高砂の 尾の上の桜 咲きにけり 外山の霞 立たずもあらなむ― 前中納言匡房 『後拾遺集』 春
- 憂かりける 人を初瀬の 山おろしよ はげしかれとは 祈らぬものをうかりける ひとをはつせの やまおろしよ はげしかれとは いのらぬものを― 源俊頼朝臣 『千載集』 恋
- 契りおきし させもが露を 命にて あはれ今年の 秋もいぬめりちぎりおきし させもがつゆを いのちにて あはれことしの あきもいぬめり― 藤原基俊 『千載集』 雑
- わたの原 漕ぎ出でて見れば 久方の 雲居にまがふ 沖つ白波わたのはら こぎいでてみれば ひさかたの くもゐにまがふ おきつしらなみ― 法性寺入道前関白太政大臣 『詞花集』 雑
- 瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に あはむとぞ思ふせをはやみ いはにせかるる たきがはの われてもすゑに あはむとぞおもふ― 崇徳院 『詞花集』 恋
- 淡路島 通ふ千鳥の 鳴く声に 幾夜寝覚めぬ 須磨の関守あはぢしま かよふちどりの なくこゑに いくよねざめぬ すまのせきもり― 源兼昌 『金葉集』 冬
- 秋風に たなびく雲の 絶え間より もれ出づる月の 影のさやけさあきかぜに たなびくくもの たえまより もれいづるつきの かげのさやけさ― 左京大夫顕輔 『新古今集』 秋
- 長からむ 心も知らず 黒髪の 乱れて今朝は ものをこそ思へながからむ こころもしらず くろかみの みだれてけさは ものをこそおもへ― 待賢門院堀河 『千載集』 恋
- ほととぎす 鳴きつる方を 眺むれば ただ有明の 月ぞ残れるほととぎす なきつるかたを ながむれば ただありあけの つきぞのこれる― 後徳大寺左大臣 『千載集』 夏
- 思ひわび さても命は あるものを 憂きにたへぬは 涙なりけりおもひわび さてもいのちは あるものを うきにたへぬは なみだなりけり― 道因法師 『千載集』 恋
- 世の中よ 道こそなけれ 思ひ入る 山の奥にも 鹿ぞ鳴くなるよのなかよ みちこそなけれ おもひいる やまのおくにも しかぞなくなる― 皇太后宮大夫俊成 『千載集』 雑
- 永らへば またこの頃や しのばれむ 憂しと見し世ぞ 今は恋しきながらへば またこのごろや しのばれむ うしとみしよぞ いまはこひしき― 藤原清輔朝臣 『新古今集』 雑
- 夜もすがら 物思ふころは 明けやらで 閨のひまさへ つれなかりけりよもすがら ものおもふころは あけやらで ねやのひまさへ つれなかりけり― 俊恵法師 『千載集』 恋
- 嘆けとて 月やは物を 思はする かこち顔なる わが涙かななげけとて つきやはものを おもはする かこちがほなる わがなみだかな― 西行法師 『千載集』 恋
- 村雨の 露もまだひぬ 真木の葉に 霧立ちのぼる 秋の夕暮れむらさめの つゆもまだひぬ まきのはに きりたちのぼる あきのゆふぐれ― 寂蓮法師 『新古今集』 秋
- 難波江の 芦のかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや 恋ひわたるべきなにはえの あしのかりねの ひとよゆゑ みをつくしてや こひわたるべき― 皇嘉門院別当 『千載集』 恋
- 玉の緒よ 絶えなば絶えね 永らへば 忍ぶることの 弱りもぞするたまのをよ たえなばたえね ながらへば しのぶことの よわりもぞする― 式子内親王 『新古今集』 恋
- 見せばやな 雄島のあまの 袖だにも 濡れにぞ濡れし 色は変はらずみせばやな をじまのあまの そでだにも ぬれにぞぬれし いろはかはらず― 殷富門院大輔 『千載集』 恋
- きりぎりす 鳴くや霜夜の さむしろに 衣かたしき ひとりかも寝むきりぎりす なくやしもよの さむしろに ころもかたしき ひとりかもねむ― 後京極摂政前太政大臣 『新古今集』 秋
- わが袖は 潮干に見えぬ 沖の石の 人こそ知らね 乾く間もなしわがそでは しほひにみえぬ おきのいしの ひちこそしらね かわくまもなし― 二条院讃岐 『千載集』 恋
- 世の中は 常にもがもな 渚こぐ あまの小舟の 綱手かなしもよのなかは つねにもがもな なぎさこぐ あまのをぶねの つなでかなしも― 鎌倉右大臣 『新勅撰集』 羇旅
- み吉野の 山の秋風 さ夜ふけて ふるさと寒く 衣打つなりみよしのの やまのあきかぜ さよふけて ふるさとさむく ころもうつなり― 参議雅経 『新古今集』 秋
- おほけなく うき世の民に 覆ふかな わが立つ杣に 墨染の袖おほけなく うきよのたみに おほふかな わがたつそまに すみぞめのそで― 前大僧正慈円 『千載集』 雑
- 花さそふ 嵐の庭の 雪ならで ふりゆくものは わが身なりけりはなさそふ あらしのにはの ゆきならで ふりゆくものは わがみなりけり― 入道前太政大臣 『新勅撰集』 雑
- 来ぬ人を 松帆の浦の 夕凪に 焼くや藻塩の 身もこがれつつこぬひとを まつほのうらの ゆふなぎに やくやもしほの みもこがれつつ― 権中納言定家 『新勅撰集』 恋
- 風そよぐ ならの小川の 夕暮れは みそぎぞ夏の しるしなりけるかぜそよぐ ならのをがはの ゆふぐれは みそぎぞなつの しるしなりける― 従二位家隆 『新勅撰集』 夏
- 人も惜し 人も恨めし あぢきなく 世を思ふゆゑに 物思ふ身はひともをし ひともうらめし あぢきなく よをおもふゆゑに ものおもふみは― 後鳥羽院 『続後撰集』 雑
- 百敷や 古き軒端の しのぶにも なほあまりある 昔なりけりももしきや ふるきのきばの しのぶにも なほあまりある むかしなりけり― 順徳院 『続後撰集』 雑